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人生朝露

人生朝露

至一の時代の人々と荘子。

さ、

あけおめ!
荘子です。

現在は
アバター。
映画「アバター」と荘子なわけです。

参照:荘子と進化論 その35。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/diary/201001120000/

・・・で、『アバター』に登場する「未開の民族」と「価値のない大きな木」というのが、大切なことなんですよ。

「アバター」予告編
http://www.youtube.com/watch?v=8-XXDzOJ1m8

Zhuangzi
『古之人在混芒之中、與一世而得澹漠焉。當是時也、陰陽和静、鬼神不憂、四時得節、萬物不傷、群生不夭、人雖有知、無所用之、此之謂至一。當是時也、莫之為而常自然。逮徳下衰、及隧人伏羲始為天下、是故順而不一。徳又下衰、及神農、黄帝始為天下、是故安而不順。徳又下衰、及唐、虞始為天下、興治化之流、澆淳散朴、離道以善、険徳以行、然後去性而從於心。』(『荘子』繕性篇 第十六)
→古の人びとは、一世の民と共に寂寞の心を備えていた。その頃は、陰陽の気は穏やかで、鬼神も乱れず、四季は節目どおりにめぐり、万物は損なわれず、動物たちは群れを成して早死にもしなかったし、人には知恵があったとしても、もちいることは少なかった。これを「一つのもの」の究極「至一」の時代と言おう。この時代には、全てが無為であり、自然であった。やがて、徳が衰え始め、人為による政治が始まった。人びとは次第に「至一」の時代を忘れていった。さらに、神農や黄帝の時代になると、安定はしていても自然に順うことがなくなっていった。舜や堯の時代になると、治世のための教育という流れがおきて、かつての純粋であることや、素朴であるような徳のありかたが散り散りになってしまった。善の名の下にあるがままの道から離れ、徳を行動によって他人に示し、人為による心が人間の本性を覆い隠してしまった。

Zhuangzi
『故至徳之世、其行填填、其視顛顛。当是時也、山無蹊隧、澤無舟梁。萬物群生、連属其郷。禽獣成群、草木遂長。是故禽獣可係羈而遊、烏鵲之巣可攀援而閲。夫至徳之世、同與禽獣居、族與萬物並、悪乎知君子小人哉。同乎無知、其徳不離。同乎無欲、是謂素樸。素樸而民性得矣。』(『荘子』馬蹄篇 第九)
→「ゆえに、至徳の世というのは、束縛もなく人の行いは穏やかで、人々の瞳は明るかった。かつての至徳の世では、山には道も拓かれず、川にも船は無かった。万物は群生して、棲み分けをする必要もなかった。動物たちは群れを成し、草木は伸びやかに成長した。ゆえに、動物を紐に繋いで共に遊ぶことが出来たし、木によじ登って、カササギの巣をのぞいてみることができた。その至徳の世においては、動物たちと同じ場所に住み、万物と並んで暮らしていた。そこに君子や小人なんているはずがない。人々はさもしい知識も持たず、徳が心から離れず、無欲でいた。これを「素樸(そぼく)」という。素樸だからこそこそ民はあるがままでられる。」

Zhuangzi
『且吾聞之古者禽獣多而人少、於是民皆巣居以避之、晝拾橡栗、暮栖木上、故命之曰有知生之民。古者民不知衣服、夏多積薪、冬則煬之、故命之曰知生之民。神農之世、臥則居居、起則于于、民知其母、不知其父、與麋鹿共居、耕而食、織而衣、無有相害之心、此至徳之隆也。然而黄帝不能致徳、與蚩尤戦於鹿之野、流血百里。』(『荘子』盗跖 第二十九)
→聞いたところによると、その昔、人よりも獣の方が多くて、人間様は、トチの実や栗の実を拾って食い、夜には木の上で眠っていたそうじゃねえか。「有巣氏の民」とかいうそうだ。その昔、人間様は衣服すら知らず、夏のうちから薪をかき集めて、冬の寒さに備えていたそうだ。これを「知生の民」というそうだ。古の神農の時代には、人間様はぐっすりと眠り、起きているときも、のんびりとやっていけたらしいじゃねえか。自分の母親を知っていても父親は知らず、牛や鹿と共に暮らし、自分で耕した分で食い、自分で衣を織り上げ、人を害するようなことも大してなかったそうじゃねえか。こういうのが徳の至りだろうよ。ところが、黄帝から下っては、徳を推し進めるのが難しくなって、蚩尤と大きな戦を起こし、その血は百里先にも及んだそうだ。

参照:当ブログ 荘子と進化論 その25。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/diary/200910310000/

・・・紀元前の中国の古典からの引用なんですが、明らかに未開の人びとの暮らしを見つめているんですよね。もともと、孔子もそうですが、中国の古典というのは、紀元前のころから「過去」を見つめて、黄帝や、舜堯の時代の理想の政治を手本にするという思考方法がありますけど、荘子の場合には、もっと先の時代の・・文明以前の、日本で言うと縄文時代を憧れるような、そんなスタンスなんです。

「野生の思考」 レヴィ・ストロース。
まるで、レヴィ・ストロースの「野生の思考」のような・・・。まぁ最低でも「環境思想家」としての荘子の思考は分かっていただけると思います。

Zhuangzi
「匠石之斎、至乎曲猿、見櫟社樹。其大蔽數千牛、潔之百緯、其高臨山十仞而後有枝、其可以為舟者旁十數。観者如市、匠伯不顧、遂行不輟。弟子厭観之、走及匠石、曰「自吾執斧斤以随夫子、未嘗見材如此其美也。先生不肯視、行不輟、何邪?」曰「已矣、勿言之矣。散木也、以為舟則沈、以為棺槨則速腐、以為器則速毀、以為門戸則液満、以為柱則蟲。是不材之木也、無所可用、故能若是之壽。」匠石帰,櫟社見夢曰「女將惡乎比予哉?若將比予於文木邪?夫柤、梨、橘、柚、果、租之屬属實熟則、実熟則辱、大枝折、小枝泄。此以其能苦其生者也、故不終其天年而中道夭,自培撃於世俗者也。物莫不若是。且予求無所可用久矣、幾死、乃今得之、為予大用。使予也而有用、且得有此大也邪?且也、若與予也皆物也、奈何哉其相物也?而幾死之散人、又惡知散木!」匠石覺而診其夢。弟子曰「趣取無用、則為社何邪?」曰「密!若無言!彼亦直寄焉、以為不知己者詬礪也。不為社者、且幾有翦乎!且也、彼其所保、與衆異、以義誉之、不亦遠乎!」(『荘子』人間世篇 第四)
→あるとき、匠石が斉の国に出かけて、橡(クヌギ)の巨木をご神木にした社を見つけた。千頭の牛を覆うほどの巨木で、百人の人間が手を繋いでも取り囲めないほどの太さだった。山のような高さの巨木は十仞もの高さでようやく枝を伸ばしている。枝だけでも数十の舟が作れそうな見事さで、この木を見るために人びとが集まり、市場のような賑わいがあった。しかし、匠はその木を顧みず、そそくさと歩き去った。弟子がすかさず「親方!おいらは斧を持って親方の下で働いてからこのかた、あんな見事な木を見たことがなかったってのに、親方はなぜあの木に見向きもしないのですか?」匠は言った「そういう物言いは止めろ!あの木は「散木」だ。舟を作れば沈むわ、棺にしてもすぐに腐るわ、器にしても壊れちまうわ、扉にすると脂が出てくるわ、柱にすると虫に食われるわ、っていう類の木だ。役に立たないからあれだけ大きくなっちまうようなものさ。相手になんかしていられるか。」
→匠石が帰り着いたその夜、例の社のご神木が匠の夢に現れた。巨木は言った「お前はいったい、ワシを何と比べたがっているのか?役に立つとかいうナシやタチバナやユズのような、実をつけた途端、枝ごと切り取られる木と比べるのか?役に立つがゆえに、腕をもぎ取られるような目に遭い、天寿を全うできないような木と。人にたとえるならば、才能があるが故に世間から批判される、そんなところだな。木も人も変わらぬ「物」なのだ。ワシは、ずっと役に立たないように努めてきた。今まで何度も切り倒されそうになったが、無用であることによって、今の、巨木としての営みという大用を得たのだ。仮にワシが役に立つ木であったとしたら、今の大きさは考えられないだろう。それに、ワシはお前と同じ「物」なのだよ。お前は、ワシを散木と言ったな。やがては死ぬ「散人」よ、お前に「散木」の何が分かるのだ?」
→匠石は、弟子にその日の夢の話をした。弟子は「親方、無用であることに努めると、お社付きのご神木になるってのは、どういうことでしょう?」と問うた。すると匠石は「シッ!声が高い!あの巨木はただそこにいるというだけのことで、自分のことを分からずに、勝手に俺が辱めていると考えているのさ。ご神木なんて言っても、クヌギにしてみれば別にありがたくもないことじゃねえか。ただ、ご神木に祀り上げられなかったとしたら、あの木は薪にでもされたろうさ。あの木の護身の法ってのは、他の木とは違う。人間様の都合で祀ったところで、あの境地を知るには程遠いだろうよ。

・・・これまた荘子の「役に立たない木」の寓話なんですが、後に道教が多大な影響を与えることとなる日本の神道の形成よりもはるか前に、こういうことを書いてしまう荘子ってのは、恐ろしい人だと思いますよ。単純で幼稚な植物の擬人化ではなく、遥かに先を行っているんです。

南方熊楠。
これまた今から100年前の、神社合祀令と、熊野古道を守った南方熊楠の環境保全運動と対比してみると、面白いもんだなぁと思いますよ。この辺が、明治の人のまともさですね。

参照:Wikipedia 南方熊楠
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E6%96%B9%E7%86%8A%E6%A5%A0

神社合祀反対運動
http://www.prodr.org/kumagusu/bkjinja.html

当ブログ 夏目漱石と荘子。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5011 

多分、次も「アバター」で。

今日はこの辺で。


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